IDOLY PRIDE第11話「命の音燃やして」考察
NEXT VENUSグランプリもいよいよ佳境。
準決勝のもうひとカード、月のテンペストvsLizNoirの一戦が繰り広げられました。
LizNoirの準決勝
前回の第10話では、サニーピースと戦うTRINITYAiLEについて、これまで明かされてこなかった戦う理由や背景が描かれていました。
今回も、月のテンペストと戦うLizNoirがここまで辿り着くまでに歩んできた道のりを知ることができました。
莉緒と葵が持つ、ここに立つその理由
準決勝の事前会見の後、「長瀬麻奈がどんなアイドルだったか」を尋ねる琴乃と1対1で会話を交わした莉緒。
彼女はそこで、自らのアイドルとしての生い立ちから、このNEXT VENUSグランプリで優勝を目指す理由までを琴乃に打ち明けていました。
(毎度のことですが、一問一答の内容を参照して、アニメでは描かれていない部分を補完していかないと正確に捉えきれないですよね。アニメ見る上で必修科目だと思います)
曰く、最初の動機は「お金」。
実家の喫茶店を切り盛りする母を楽させたいという思いからお金を稼ぐことに思い至り、その時の自分にできたことがアイドルだったのだと振り返っています。(初期のプロジェクトPV公開時にある意味一番注目を集めていた「稼ぎたい」というワードが彼女によるものだったとは!!)
しかし、そのような不純な動機では、見せかけの技術は向上しても、人の心を動かすことはできなかったと莉緒は述懐しています。
そこで出会ったのが、当時バンプロにいた三枝さんが見つけてきた葵。
「早くデビューしたい、売れたい」という動機に突き動かされながら進んでいた莉緒を見て、「重たい」と切り捨てたのだそうです。
そんな葵も長年こうしてLizNoirをやっていますが、特にアイドルを志す理由はなく、ただ誘われたからというのがアイドルを始めたきっかけだと語っています。
下手したら全アイドル中最も動機に欠けるのではないかと言う感じですが、一方じゃあなぜこれほど長く続けているのかというところは明確です。
インタビューでも、
――まずは、学校生活について聞かせてください。学校ではどのように過ごしていますか?
井川 普通だよ。普通に学校行って、普通に過ごしてる。――その普通が意外と聞きたいところだったりします。休み時間はどうしていますか?
井川 何してたかな。ダンスしてることが多いと思うよ。――すごいですね。学校でもレッスンに励んでいるのですね。
井川 レッスン? そんなつもりはないよ。踊りたいから踊ってるだけだよ。
と答えている通り、彼女はただただダンスが好きなのです。
その好きなダンスで大手プロダクションのマネージャーに見いだされ、「稼ぎたい」という動機で始めた莉緒とLizNoirを組んでここまでやってきているということはつまりよく言うところの「好きなことで、生きていく」の体現者ということなのではないでしょうか。
「好きこそものの上手なれ」とも言いますが、そういった意味ではダンスが好きで、そのダンスが評価に繋がるアイドル界というのは葵にとってはまさに天職なのかもしれませんね。
そんな葵に「重たい」と切り捨てられた莉緒は、葵のダンスを見たときの感想を「言うだけあって、軽やかで自由で、気持ちが良かった」と振り返っています。
ここらを少し掘り下げて考えてみると、このふたりは「心の趣くままに自分のしたいことをしていた結果、誘われるがままアイドルになった」葵と、「”喫茶店を切り盛りする実家の母に楽をさせたい”という、大切であることは間違いないが、その反面『生まれた家』『母親』という自分ではどうすることもできない要素に縛られ、そこに固執する中で、アイドルという道を進んだ」莉緒という正反対のバックボーンを持ったコンビ、ということがわかります。
莉緒には葵のような気持ち良さや軽やかさ―もっと言えば、見る人の心を動かすほどの魅力―が出せていない反面、「実家の母のために金を稼ぐ」という、もっと上に行きたい、売れたいと思う原動力となる戦うべき理由を強く持っています。
一方で葵。スカウトされ運良くこうして「好きなことで、お金を稼ぎ生きていく」という状態が構築されており、そのパフォーマンスは莉緒にも感銘を与えるほどです。と同時に、3年前のグランプリでの麻奈との会話の中で「元々勝敗を気にするタイプではない」と語っていたり、一問一答では「アイドル活動で大切にしていること」の質問に対して「LizNoirがLizNoirであり続けること」と答えていたりするところからも、自分の今ある環境に(いい意味で)十分に満足しており、それゆえアイドルとしてこれ以上の向上心・功名心は持ち合わせていないのではないかと伺えます。
こうして考えると、お互いの足りないところを補い合うようなふたりで初期LizNoirは結成されていることがわかります。なんとなく三枝さんの設計思想というか、そのへんが伺えますね。
しかしながら、このふたりの関係をもってしても埋めきれない点というのも同時に存在しています。
それは、ふたりとも「アイドルは自分のやりたいことを達成する手段に過ぎない」という点。
例えば、バカにするわけじゃないですけど、極端な話をしましょうか。
ここまで見てきた内容を振り返るに、アイドルになる前の最初の段階で各々に5000兆円あげたとすると、ふたりとも別にアイドルにはならないのではないかという気がしませんか?
そうすれば莉緒は実家を守れるし、葵は他のことを何も気にせず、好きなダンスを突き詰められますし。
実際にはもっとお互い込み入った事情もありますから全くその通りにもいかないでしょうが、要するに「自分の本懐が達成できるのであれば、何も別にアイドルじゃなくたってよかった」んじゃないかなって感じるのです。
それゆえ、アイドルそのものに対する思い入れに欠けるというのは、LizNoirとしての特徴と言えそうです。
三枝さんの退社と、麻奈が残したもの
そんなふたりをLizNoirとしてコンビでデビューさせ、マネージャーとして順調な日々を過ごしながら彼女たちを育て上げていた三枝さん。
しかし、ある日三枝さんはバンプロを退社。その後、星見プロを立ち上げる運びとなりました。
先ほど、LizNoirが「アイドルに対する思い入れに欠ける」という話をしましたが、そんな彼女たちに立ち塞がった「アイドル」こそが、他でもない三枝さんが見出し、育て上げた麻奈だったのです。
莉緒は琴乃との会話の中で、麻奈のステージを目の当たりにしたときのことを振り返り、「悔しいけど、彼女のステージを見て心を揺さぶられた。見ていると元気になれるステージ。気持ちが明るくなって笑顔になっていた。ずっと見ていたい、いつの間にかこの人のことが好きなんだと思えるステージだった」と語っています。
このステージのおかげで、莉緒は「アイドルの力」「なぜ人がアイドルを好きになって応援するのか」が初めてわかったと、そう思っているのだそうです。
そして、その経験があるからこそ、麻奈と戦うはずだったNEXT VENUSグランプリで優勝し、「麻奈に対して自分が感じたように、みんなの心を揺さぶり、元気にさせるアイドルになれているかどうかを自分に問いたい」と。
つまり、アイドルに対する明確な憧れがないまま業界に飛び込んだ莉緒が、そこで初めて見つけた憧れの相手こそが麻奈であり、後にも先にもそのイメージを塗り替えるほどのアイドルに出会えなかったがために、目指すべきアイドル像が麻奈に固定されていたということになりそうです。
ずっと、在りし日の麻奈が見せた「アイドル像」を理想として駆け抜けてきた莉緒。琴乃が「自分と一緒だ」と言う理由も非常によくわかりますね。
また、麻奈は葵に対しても影響を与えていました。
3年前の準決勝後の会話の中で、握手を拒否するLizNoirに対して「決勝で私が勝ったらあなたたちのほうから握手して」と応えた麻奈の言葉に、葵は「本来勝ち負けなんて気にしない派だけど流石にカチンと来た。初めて、勝ちたいと思えてきた」と、初めて敵愾心をむき出しにしています。
LizNoirのふたりにとって、麻奈との出会いは「初めて」尽くしだったということがわかりますし、仮に結果がどんなものになっていたとしてもその後のLizNoirにとって大切な1ページになるはずだった、麻奈と直接ぶつかり合うNEXT VENUSグランプリ決勝という機会が永久に失われてしまったことは彼女たちにとって最大の悲劇であったと言えましょう。
それだけに、麻奈の実の妹である琴乃との準決勝、そして麻奈の再来と叫ばれるさくらが待つ決勝は、その悲劇の清算にはまたとない機会となったに違いありません。
余談:三枝さんとバンプロ星見プロ、そしてこのシナリオの話
LizNoirを立ち上げておきながら、その志も半ばにバンプロを去り、星見プロを立ち上げた三枝さん。
バンプロ内で朝倉社長や会社と何かがあったことは間違いないのでしょうが、その辺の事情は今も語られないままです。
でも、「アイドルそのものへの思い入れに欠ける」莉緒に感銘を与えるほどの「The アイドル」たる麻奈を育て上げたことと、Beginning of Lodestar第1話で「上手いだけじゃ響かないんだよなぁ…」とひとりごちていること、そしてバンプロを去ったことは通底しているように感じます。
そして何より、その朝倉社長が麻奈のことを認めているというのもまた、かなり示唆的ですね。
結局、大手であるバンプロのTRINITYAiLE・LizNoirではなく小さな事務所である星見プロのサニーピース・月のテンペストが勝利を収めているという結果になりましたが、これは作品からは離れたメタ的観点では誰が誰に対して何を訴えかけているストーリーなのかというところも考えていくと興味深いですね。
そのへんに対しては答えは出ませんが、このシナリオの裏テーマは気になります。
月のテンペスト、あるいは長瀬琴乃の準決勝―消えゆく麻奈と、進みゆく琴乃
続いては、月のテンペスト側のことを振り返っていきましょう。
サニーピースが決勝進出を決めた舞台裏では、麻奈の症状(?)もまた進行していました。
牧野曰く、「さくらが心臓・麻奈の歌声への依存から脱却し、徐々に自分自身の力で歩みだしていること」が理由だと。
芽衣はそれを止めようとしますが、牧野も、そして麻奈自身もそれを拒みます。
残された時間が少ないことも自覚している麻奈は、「最後の宿題」として、琴乃と向かい合うことを決意しました。
一方、琴乃は準決勝に向けた大事な時期にありながらも、牧野と芽衣、さくらから麻奈の存在のことを知らされ、対話してみないかという提案を受け、悩ましい日々を送ることになりました。
最初は、ようやく「月のテンペストの長瀬琴乃」としてのあり方を確立できそうなところに来ているのに、もし麻奈に会ってしまったらそれが肯定であれ否定であれ、何かが終わってしまうような気がすると拒もうとしていました。(そこに関しては「ここまでの張り詰めたものが途切れてしまうと思う」としていた麻奈の意見とも一致するところで、さすが姉妹ですね)
そんな中で莉緒には「姉はどんなアイドルだったか」、牧野には「アイドルって何なんでしょうね。お姉ちゃんはなんて言っていました?」と、当時をよく知る人物の記憶に残る麻奈のことを追いかけながらも、遂には「お姉ちゃんと話そうと思う」と決心を固めます。
牧野と麻奈のいる、寮の離れにやってきた琴乃。
敢えて牧野や芽衣による通訳を付けない、つまり自分が話すことに対する麻奈の反応を聞かないという姿勢で臨みました。
「それらは自分で決着をつけなければならないことなので、聞きたいことや謝りたいことはたくさんあるけど、何も聞かないことにする。
『アイドルとは何なのか』『お姉ちゃんがどうして打ち込んでいたのか』がわからなかったが、自分がやってみて、『ステージに立って、歌を届けて、楽しんでもらう』ことの素敵さを知ることができた。
だから、もうお姉ちゃんの後を追いかけない。代わりにステージに立ちたいとも思わない。
私は、お姉ちゃんと同じようにもっともっとアイドルのことを好きになって、もっともっと沢山の人に楽しんでもらう。
自分のなりたいアイドルは、自分で見つけて歩いていく」
と、そこにいる麻奈に向かって決意を表明しました。
肯定されようと否定されようと、それが自分の見つけた道、やりたいと思うことだから、麻奈に何と言われようともそうすると決めたことだから、きっと麻奈からの答えは要らなかったのでしょう。
「嬉しい?それとも悲しいかな?」と麻奈に問いかけていますが、これがずっと一緒にいた麻奈との決別、姉からの卒業であることは誰よりも琴乃が深く理解していたからでしょう。
弊ブログでも2話あたりの時点で
ストイックにアイドル活動に打ち込む琴乃ですが、「姉のために」という意識があるうちは結局のところ幼い頃と変わらず、自分自身に向き合うことから逃げているに過ぎません。
もう二度と戻ってこない「お姉ちゃん」の幻影を打ち破れた暁にこそ、琴乃の本当の一歩が待っている、そんな気がしてなりません。
とこの辺に関して言及していましたが、遂にその日がやってきました。
星見プロで、そして月のテンペストのリーダーとして過ごす日々の中で、琴乃のことを一番だと思ってくれる仲間に囲まれ、誰でもない自分の、自分たちだけの力で共にこの準決勝まで勝ち上がってきました。
お姉ちゃんにべったりのかつての姿も、「お姉ちゃんのせいで」と責任転嫁してむくれていた姿も、星見プロに入りたての頃のような一匹狼の姿も、そして麻奈の目に映っていた幼い妹の姿も、もうそこにはありません。
他でもない長瀬琴乃自身として、立派に歩んでいけるだけの強さをもう既に手にしているのです。
そんな琴乃に、「それでいいんだよ」と語りかける麻奈。
よかった、本当によかった………
迎えた準決勝第2試合
そして迎えた準決勝当日。
LizNoirは「GIRI-GIRI borderless world」、月のテンペストは「The One and Only」を披露しました。
「GIRI-GIRI borderless world」の歌詞では、「心にウソがあったら 転げ落ちそうだから」「Judge now 自分に聞いてみるんだ ホントの願いを叶えるんだ」とありましたが、ここまでの内容を見てきた限り、彼女たちの本当の願いというところに関して、「稼ぐ」「好きなダンスをする」、そして「長瀬麻奈に受けたような感銘を与えられるようになる」と、前回TRINITYAiLEに対して感じたようなベクトルのちぐはぐさのようなものを感じることばかりだという印象があります。
また、「私たちらしく」と口にしてからステージに向かっていましたが、ではその「LizNoirらしさ」って一体何なんでしょうね。
それがはっきりせず、「目指すべきアイドル像」をクール系の自身らとは似ても似つかないイメージの麻奈に置いてしまっていたことも、そのベクトルをずらす要因のひとつだったのではないかという気がします。
一方、月のテンペストが披露した「The One and Only」。
前半では麻奈に対する懺悔・贖罪と決別、後半では「月の光」―ひとりだけでは輝けないが、誰かと一緒にいることで輝ける存在―となって誰でもない自分の道を進むのだという決意が歌われています。
…なんていう言葉尻の話よりもさ、やっぱりこの曲ではみんなと一緒にステージに立っていろんな豊かな表情を見せてくれる琴乃の姿が全てを物語ってますよね。
2グループに分かれた後すぐのトレーニング風景では芽衣に「笑顔が固い」って顔むにむにされてた琴乃がですよ。これだけ心からの笑顔を浮かべてるんですよみなさん。
サビ前のどアップなんてヤバくないですか?もうそれだけで泣けてきちゃいますよね、ほんとによくぞここまで成長したと思いますし、そんな光景をしっかり描写しながら素晴らしいライブシーンを作ってくれる製作者のみなさんに本当に感謝です。
かくして、準決勝第2試合は月のテンペストの勝利で幕を下ろしました。
終了後、琴乃から握手を求められた莉緒。
今度はしっかりその手を握り返しました。
琴乃から「麻奈が莉緒のことをライバル視していて、だからこそそっけない態度をとっていたのだと思う」ということを告げられると、「だとしたら、私も頑張って本物のアイドルにならないとね。あの子をがっかりさせないためにも」と口にしてステージを後にしました。
3年前に見ることのできなかった景色に辿り着くことは叶いませんでしたが、LizNoirは3年の時を経て、確かに次の一歩へと歩みを進めました。
まとめ
結局、前回のTRINITYAiLE戦同様、「他の誰でもない、自分たちだけのあり方」を手にすることができていたかどうかというところが勝敗を分けたと言えそうです。
平たく言えばその一言に尽きるのですが、よくよく見返すことで「では、どうしてLizNoirはそれを手にすることができなかったのか」の部分がこうしてしっかりと描かれていたというところは本当にこの作品のいいところだと思います。
遂に物語も佳境に差し掛かり、残すところは最終話のみ。
こちらもなるべく早く書き上げたいところです。
雑感
・莉緒について
プロジェクト発表当初から「初めての挫折を味わわせてあげる」というセリフが取り上げられていたLizNoir、そして莉緒でしたが、ここでようやくそのセリフが麻奈に向けられたものだったということがわかりました。
彼女自身も麻奈に敵わないことはわかっていたかもしれないにも関わらず、このような言葉を向けるというところは引っかかりました。
そういえば以前、三枝さんに対してバンプロに戻ってきて再びマネージャーになってほしいと直談判しに来たときにも、依頼をしている側のくせに「後悔させる」と言い残していきました。
思うに、困難な状況になったときに敢えてそういう強い言葉を放って自分を鼓舞するタイプの性格なのかもしれませんね。
ヒール役っぽい立ち位置になってはしまいますが、彼女も決して悪い子ではないんだろうなと思います。
・千紗ちゃんについて
今回、千紗ちゃんは数カットしか出ていませんが、毎回毎回その数カットだけでウルッとさせられてしまうんですよね。
その辺の理由についても必ず記事にしたいなと思ってますが、こうして表立って描かれていない部分にもひとりひとりドでかい文脈が確かにあるっていうのがこのIDOLY PRIDEというコンテンツだと思いますし、だからこそその描かれていない、けれども確かに存在している部分が遺憾なく発揮されるであろうアプリ版には大いに期待しているんですよね。